1. 個人病医院における必要経費
個人で病医院を経営している場合、利益を計算する上で、「必要経費」として収入から引けるもの、「家事費」として引けないもの、「家事関連費」として条件を満たせば引けるもの、3つのパターンに分けることができます。
必要経費とは、「収入を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」であり、その支出が必要経費として収入金額から控除されるためには、それがその事業の業務と直接関係をもち、且つ業務遂行上通常必要な支出であることが必要です。簡単に言うと「売上を上げるために犠牲になるもの」が必要経費になります。 家事費とはいわゆる生活費で、具体的には自分や家族の医療費、健康保険や年金といった社会保険料、生命保険料、自宅の家賃や水道光熱費、固定資産税、火災保険、友人や親族に対するお祝い、お香典といった社交費等が該当します。
家事関連費とは事業上の必要経費と家事費が混在しているもので、例えば医院併用住宅の場合の固定資産税や減価償却費、火災保険料、水道光熱費等をいいます。また自動車についても事業専用車でない場合、減価償却費やガソリン代、自動車税や自動車保険などは家事関連費に該当します。家事関連費については、原則として必要経費に算入することはできませんが、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかにすることができる場合には、その部分を必要経費の額に算入することができることになっています。具体的には面積割合や使用時間等合理的な基準で按分すれば事業用部分は必要経費になります。
業務上の経費 | 必要経費 |
---|---|
家事関連費 | 原則、必要経費にならないが一定の条件を満たせば必要経費に算入可能 |
家事費 | 必要経費にならない |
個人病医院でかかる事業の費用は、税務上、事業所得の必要経費と言いますが、すべての費用が無条件に必要経費になるわけではありません。
(1) 必要経費になるもの
①薬材費 ②給与費 ③委託費 ④設備関係費(減価償却費・リース料等)⑤研究研修費
⑥その他の経費(水道光熱費・諸会費・支払利息等々) ⑦専従者給与
(2) 必要経費にならないもの
①家事関連費 ②所得税、加算税、延滞税 ③住民税、加算金、遅滞金 ④罰金、科料、過料
⑤故意または重過失による損害賠償金 ⑥刑法に規定する賄賂 ⑦同一生計の親族に支払う給与(青色事業専従者給与を除く。)・賃借料など
2. 誤りが起こりやすいケース
(1) 子供(学生)に支払ったアルバイト料
大学生である子供に学校の夏休み中に経理事務の仕事を手伝ってもらったのでアルバイト料を支給して必要経費として処理した
→所得税法では事業主の「事業に専従」する家族従業員については一定の条件のもとに必要経費(青色専従者給与または専従者控除)に算入することを認めています。しかし、このケースでは「事業に専従」には該当せず、したがって子供に支払ったアルバイト料は必要経費とすることはできません。
(2)事業主と事業専従者だけで旅行等をした場合
→その旅行等は単なる家族旅行としての性格が強いものと認められ、通常の場合、家事的な費用として取り扱われるので、必要経費に算入することはできません。
(3)医師同士で行くゴルフ費用
→最近では、医療をとりまく環境も変わり、医師同士の交流も患者獲得のためには必要な情勢になりつつありますが、その支出が事業遂行上直接必要であるかどうかが問題になるものと思われます。必要経費に算入する場合はその根拠(例えば、患者の紹介件数など日頃からの業務関連度合いを具体的に説明できる資料)を明示できるようにしておきましょう。
(4)諸会費等の費用
→毎月、医師会の諸会費等が銀行口座から一括引き落としされている場合、その明細を確認して、必要経費と家事費に適切に区分して下さい。先生自身の医師国保の保険料、生命保険料、医師年金、共済会費等は家事費となります。
(5)同窓会費等
→同窓会費、同窓会主催旅行の参加費用等は家事費又は家事関連費と認められ、家事関連費に該当するとしても、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることができなければ必要経費に算入することはできません。
(6)政治連盟会費
→これは政党や公職候補者の後援が目的のものと判断されるので、必要経費に算入することはできません。
(7)ロータリークラブ等の会費
→例会等に参加することが病医院の業務上遂行上直接必要であるとは認められないので必要経費に算入することはできません。 (以上は所得税法の適用を受ける個人で病医院を経営している場合の取り扱いであり、法人税法の適用を受ける医療法人の場合は取り扱いが異なります。)
3. 概算経費率と適用する際の注意点
社会保険診療報酬の所得計算の特例という規定があります。これはその年分の社会保険診療報酬が5,000万円以下であるときは、下記の計算式により算出した概算経費を実額計算に代えて必要経費とすることができます。
社会保険診療報酬の金額(A) | 概算経費の計算式 |
---|---|
2,500万円以下 | (A)×72% |
2,500万円~3,000万円以下 | (A)×70%+50万円 |
3,000万円~4,000万円以下 | (A)×62%+290万円 |
4,000万円~5,000万円以下 | (A)×57%+490万円 |
適用する際の注意点は
- 1.実額経費か概算経費を使うかは確定申告の際の選択ですが、一旦選択すると、その年分については後日、実額経費の方が有利と分かっても、実額計算に変更することはできません。
- 2.社会保険診療報酬の金額には患者の窓口負担金も含まれます。その際、窓口負担の減免等があり領収していない金額があったとしても、領収したものとして社会保険診療報酬の金額は計算します。
- 3.確定申告書にこの特例の適用を受けて所得金額を計算した旨の記載が必要です。
「必要経費」は事業を継続している限り発生し続けます。一度、誤った処理をしてそのまま処理を継続してしまうと、適正な所得計算ができず、税務調査において指摘を受けた際には大きな修正申告額になる場合もあります。くれぐれも注意して適正な経理処理を行って下さい。